✒️ 📏 立ち上がるとき、子どもの心臓が暴れる——コロナ禍で小児のPOTSが急増した理由
立ち上がったとたんに脈が異常に速くなる。めまい、頭痛、動悸、だるさ——そんな症状で学校を休む子どもたちが、コロナ禍を境に急増していた。関西医科大学が12年間のデータを振り返り、その事実を明らかにした。
🧠 前提知識
- 起立性調節障害(OD): 立ち上がったときに血圧や脈の調節がうまくいかず、めまいや動悸が出る病気。思春期に多い。
- POTS(体位性頻脈症候群): 立ち上がると血圧は下がらないのに脈だけ異常に速くなるタイプ。脈が115拍/分以上、または立位で心拍数が35拍/分以上増加。
- INOH(即時性起立性低血圧): 立ち上がった瞬間に血圧がガクンと下がるタイプ。以前はこれが一番多かった。
- ディコンディショニング(身体機能低下): 運動不足によって体の機能が落ちること。ベッドに7〜20日寝ているだけでも、健康な若者の心臓と血液量が減り、立ち上がると脈が異常に速くなる。
🔬 何をしたか
- 関西医科大学小児科で、2014年〜2025年の12年間に起立性試験を受けた12〜15歳の624人を対象に後方視的に分析
- 10分間のヘッドアップチルト試験(ベッドを90度に傾けて血圧と脈を測定)を、同じ医師が12年間一貫して実施
- 日本の小児心身症学会のガイドラインに従い、ODを4つのサブタイプ(INOH、POTS、VVS、遅延性OH)に分類
- コロナ禍前(2014〜2019年)とコロナ禍後(2020〜2025年)で比較
- さらに3年ごと(2014-2016、2017-2019、2020-2022、2023-2025)に区切って時系列変化を分析
🎯 何が分かったか
① POTSがODの中で一番多い
- 624人中439人がODと診断。そのうち281人(64.0%)がPOTSだった。
- かつてはINOH(立ち上がりに血圧が下がるタイプ)が一番多かったが、今はPOTSが圧倒的多数。
② コロナ禍を挟んでPOTSが84%増えた
- コロナ禍前(2014〜2019年):POTSは99人(OD全体の54.1%)
- コロナ禍後(2020〜2025年):POTSは182人(OD全体の71.1%)
- 人数で84%増、割合で17ポイント上昇。統計的に有意(p < 0.001)。
- 一方、INOHの割合は21.3%から11.3%に減少(p = 0.0044)。
③ 実はコロナ禍前から増え始めていた
- 3年ごとの分析で、POTSの割合は2014-2016年から2017-2019年にかけても増加傾向にあった。
- つまり「コロナ禍で突然増えた」のではなく、コロナ禍前から増えていたトレンドをコロナ禍が加速した形。
- ピークは2020-2022年(72.4%)。日本で学校閉鎖と行動制限が実施された時期と一致する。
④ 男女比と年齢に変化なし
- コロナ禍前後で年齢、性別に差はなかった。男:女はほぼ1:1。
- POTSが増えたのは特定の性別や年齢ではなく、全体的な現象だった。
💡 何を意味するか
「運動不足の悪循環」がPOTSを増やした
- 日本の子どもたちはコロナ禍前からスマホやゲームで運動量が減っていた。この「トレンドの上に」コロナ禍の学校閉鎖と行動制限が乗った。
- 運動不足→身体機能低下(ディコンディショニング)→立ち上がると脈が速くなる→運動がつらくなる→さらに運動不足、という悪循環。
心理的ストレスも関与
- コロナ禍で子どもの不安やうつが増えた。日常の乱れ、社会的孤立、心理的ストレスが自律神経と身体症状を悪化させた可能性。
- 身体機能低下と心理的ストレスは独立ではなく、相互に悪化させ合う。
POTSはロングコロナの症状の一つでもある
- 成人では、コロナ禍後にPOTS診断が急増した報告がある。POTSはロングコロナの一般的な症状の一つ。
- ただし、この研究ではCOVID-19の抗体測定やワクチン接種歴を取っていない。これらの子どもたちが実際にSARS-CoV-2に感染していたかは不明。
「気のせい」ではない
- 立ち上がると脈が異常に速くなり、めまいや動悸で学校に行けない——それは子どもの怠けでも気のせいでもなく、客観的に測定可能な循環器の問題である。
⚠️ 注意点
- **プレプリント(査読前)**である。結果は暫定的で、査読後に変更される可能性がある。
- 単施設の後方視的研究。関西医科大学1施設のデータであり、日本全国や他国に一般化できるかは不明。
- COVID-19の抗体測定もワクチン接種歴も取得していない。これらがPOTS発症にどう関わったかは評価できない。
- 個人の身体活動量や心理的ストレスのデータがない。「ディコンディショニングが原因」というのは推論であり、直接証明したわけではない。
- POTSとロングコロナ由来のPOTS様症状の区別ができない。米国自律神経学会も指摘する通り、コロナ後のPOTSと元来のPOTSが同じものかは未解明。
- 発熱や咳のある患者は起立性試験を延期していたため、急性期COVID-19の影響は限定的だが、慢性期の影響は制御できていない。
- INOHの減少はPOTSの相対的増加の裏返しの可能性があり、INOHが本当に減ったのかPOTSが押し出したのかは不明。
🧩 一言で言うと
コロナ禍を挟んで、12〜15歳の子どものPOTS診断数が84%増えた。ピークは学校閉鎖と行動制限があった2020-2022年。ただしPOTSはコロナ禍前から増え始めており、スマホやゲームによる運動不足のトレンドの上に、コロナ禍の制限が乗って加速した形だ。運動不足による身体機能低下と心理的ストレスの悪循環が、立ち上がると脈が暴れる症状を引き起こし、学校生活に支障を出している。これは子どもの怠けでも気のせいでもない。ただしプレプリントであり、単施設のデータで、感染歴も測っていないなど限界もある。
📄 論文情報
- タイトル: Increase in children with postural tachycardia syndrome after the COVID-19 pandemic
- 著者: Ryuhei Yoshida, Yuko Ishizaki, Yoshitoki Yanagimoto, et al.
- 所属: 関西医科大学小児科
- DOI: 10.21203/rs.3.rs-11013598/v1
- 注意: プレプリント(査読前、2026年10月14日投稿)
🚨新研究レポート、明日の2026年10月21日、23:59まで
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