✒️血液の中を、何かが流れている ─ Long COVIDの見えない底
調べれば調べるほど、わけが分からなくなる。
Long COVID。その正体に近づいたと思った瞬間、また別の闇が顔を出す。
オーストリアのチームが、Scientific Reportsに投稿した論文が、新たな謎を掘り出した。
血液の中に、何かが流れている
著者らは、末梢静脈血の中にある「流れる小さな塊」を生きたまま観察する方法を導入した。
毛細血管の血流を邪魔しうる構造があるのではないか──その発想だ。
結果。
彼らの施設でpost-COVIDが疑われた840人を調べたところ、40%で特殊検査に陽性シグナルが出た。
ゼロではない。相当数に、何かが見えている。
眠っていたウイルスが、目覚める
さらに恐ろしいのは、ここにEBVが重なることだ。
微小凝集塊がある患者の80%が、EBVペプチドに反応してIFN-γを出すT細胞反応を示した。
SARS-CoV-2感染による免疫のゆらぎが、普段は眠っているEBVの再活性化を許している。
Long COVIDのだるさ。インフル様のしんどさ。首のリンパ節の違和感。PEMっぽい悪化。
「別の眠っていたウイルスが絡んでいるかもしれない」。
その仮説が、ここで具体的になる。
「血栓」ではない、もっと不気味なもの
そして、著者たちが見た構造には、成熟したフィブリンが入っていなかった。
だから「microclots(微小血栓)」ではなく、「microaggregates(微小凝集塊)」と呼ぶべきだとしている。
血小板、白血球、糖に富む無定形物質が寄り集まった、免疫と止血のハイブリッド構造。
血液の流れを止めるのは、血栓だけではない。
もっと複雑で、もっと始末の悪い何かが、血管の中を流れている。
治療の光は、まだ遠い
治療の探索データも載っている。抗血小板薬+低分子ヘパリン+valaciclovirのような組み合わせ。
最初の比較では、Bell scoreの改善が43点 vs 23点。主観的改善は78% vs 33%。
目を引く数字だ。だが、これはランダム化も盲検化もない、非常に小さい後ろ向き比較だ。
「効く」と断言するには、早すぎる。
一貫性はない、それが怖い
この特殊な血液所見が見られたのは、post-COVID集団の約40%にすぎない。
Long COVIDは一貫ではない。
ある人ではウイルス残存。ある人では肥満細胞。ある人では自己免疫。そしてある人では、微小循環の渋滞とEBV再活性化が前景に出る。
調べれば調べるほど、謎は深まる。
見える病理、見えない恐怖
この論文の価値は、「新しい治療法を証明した」ことではない。
Long COVIDを「見える病理」に少し近づけたことだ。
血がどう流れず。どの免疫反応が再点火され。なぜ疲労やPEMや認知症状が頑固なのか。
その問いに対して、かなり具体的な作業仮説を置いた。
Long COVIDは「気合いで抜ける不調」ではない。
血流と免疫の配線が、同時に狂っている状態なのかもしれない。
Wick, N., Hermann, M., Lisch, C. et al. Clinical relevance of circulating blood microaggregates and reactivation of Epstein Barr Virus in long-term Post-CoVID syndrome patients. Sci Rep (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-42952-8