✒️ ロングCOVIDの脳も「脱髄」している――多発性硬化症やパーキンソン病と同じ手法で見えたもの
2026年7月28日に発表された論文が、ちょっと驚くべき結果を報じています。
ロングCOVID(LC)患者の脳に、多発性硬化症(MS)やパーキンソン病(PD)と同じように「ミエリンの減少(脱髄)」が起きている――しかも、通常のMRIでは異常に見えない領域で。
なぜこれが重要か
ミエリンは神経線維を覆う絶縁鞘で、脳の信号伝達スピードを保つために不可欠です。ミエリンが失われると、認知機能の低下や運動障害につながります。
MSは「脱髄の代表選手」ですが、近年、パーキンソン病やうつ病、さらには加齢に伴っても、目に見える病変以外の場所でミエリンが減っていることが分かってきました。
今回の研究は、ロングCOVIDもそのリストに加わる可能性を示しています。
どうやって測ったのか
研究チームは「MPF(Macromolecular Proton Fraction)マッピング」という定量MRI手法を使いました。これは通常のMRIでは見えないレベルのミエリン量を数値化できる技術です。
対象は合計196人:
- 多発性硬化症(MS):42人
- パーキンソン病(PD):16人
- ロングCOVID(LC):75人
- 健康対照:63人
性別、年齢、脳萎縮の影響を統計的に除外して、純粋に「病気によるミエリン減少」を抽出しています。
何が見えたのか
全体的なミエリン減少の規模
| 群 | 灰白質 GM | 混合領域 WM-GM | 純白質 WM | WMH体積 |
|---|---|---|---|---|
| MS | −23.7 ± 5.3% | −12.8 ± 1.8% | −9.6 ± 2.0% | +1688% |
| PD | −0.8 ± 1.9% | −3.4 ± 1.9% | −2.7 ± 1.7% | +1521% |
| LC | −1.6 ± 0.9% | −3.2 ± 1.1% | 全体群では不明瞭 | 有意な増加なし |
MSが圧倒的に大きいのは予想通りですが、ロングCOVIDでも灰白質と白質-灰白質混合領域で有意なミエリン減少が確認されました。
ロングCOVIDの症状別に見ると
LC患者を症状別に分けて分析したところ、特に以下の合併症でミエリン減少が顕著でした:
- うつ病:灰白質と白質-灰白質で有意な減少
- 不眠症:白質と白質-灰白質で有意な減少
- 認知機能障害:白質-灰白質で減少、病変体積も増加
- 慢性頭痛:白質-灰白質で減少
うつ病と不眠症を併発している患者では、他のLC患者と比べても有意にミエリンが減っていました。
加齢の影響も改めて測定
健康な人でも、ミエリン量は年齢とともに変化します。今回のデータから計算すると:
- ミエリンのピーク年齢:白質で約42歳、灰白質で約45歳
- 18-24歳の若年層でも、35-44歳より有意にミエリンが少ない
- 75-85歳では全領域で大幅減少
つまり、ミエリンは若いうちから増え続け、40代半ばでピークに達し、その後緩やかに減っていくという「逆U字カーブ」を描きます。
これが意味すること
ロングCOVIDの脳で起きていることは、単なる「疲れ」や「気のせい」ではありません。MSやPDほど劇的ではないものの、客観的に測定可能なレベルでミエリンが失われているのです。
特にうつ病や不眠症を合併しているLC患者で減少が大きいということは、これらの症状が単なる心理的な問題ではなく、脳の物理的な構造変化と結びついていることを示唆しています。
今後の課題
- LC患者のサンプルは神経精神症状を持つ人に限定されているため、一般化には注意が必要
- 縦断的データがないため、これが回復するのか進行するのかは不明
- PDのサンプルサイズが小さい(16人)
それでも、MPFマッピングという手法が、LCの脳変化を定量化できることを示した点で、今後の診断マーカー開発に一歩前進と言えます。
出典: Khodanovich M, et al. "MRI-Based Quantitative Assessment of Normal-Appearing White and Gray Matter Demyelination in Multiple Sclerosis, Parkinson's Disease, Long COVID, and Normal Aging." Biomedicines. 2026;14(8):1691. doi:10.3390/biomedicines14081691