カバヤキこーひーるーむ

✒️条件が合うと処理速度が80倍に爆速化するコロナウイルスのメインプロテアーゼは、通常の古典力学で計算すると、活性化エネルギー(壁)が高すぎて、不可能に見える、が

今日、Xの方に、研究者たちがコロナウイルスのメインパーツであるMproに、奇怪な性質を発見したことを投稿しました。 投稿を振り返ってもらえばわかる通り、Mproは二つのハサミで出来ています。この研究が明らかにしたのは、このハサミは構造が歪みやすく、片方に基質をセットするともう片方にはセットしにくくなる。しかし、両方にセットされると今度は切断速度が2倍ではなく80倍に爆上がりするということです。論文で著者らはこの未解明の性質に警笛を鳴らしつつ、むしろこの性質を狙った抗ウイルスアプローチの方が本質的かも知れないと示唆しています。現在の手法は、このハサミに擬似基質をセットして阻害することを狙いにしているため、この未知の反応を意図せずして起動してしまうリスクがあるからです。

この80倍というのが、どれくらいありえないのか説明します。

通常、酵素の反応速度は基質が増えると緩やかに上がります(ミカエリス・メンテン型)。しかし Mpro は違い、S字型の急カーブを描くシグモイド型の曲線を示す。二つのハサミが「協力して働く」サインのHill 係数は 1.59で非常に高い。片側だけの時の速度定数(k_c1)は鈍い 0.014 s⁻1 ですが、両側が埋まると 1.20 s⁻1 へと跳ね上がります。およそ 80 倍の加速です。 しかも論文が強調しているのは、これが「より強く結合したから」ではない点です。結合はむしろ入りにくくなっているのに、一度入ると「反応速度(化学反応の速さ)」が劇的に上がるという、珍しいタイプの現象。 この時点でもう十分に面白い。Mpro は二つの独立した刃ではないということです。片側で起きた出来事が、もう片側の「反応時間」を作り替えているのです。構造生物学の言葉でいえば、これは active site の形だけの話ではなく、エネルギーの山を越えるルートである「反応座標」の地形そのものが切り替わる話です。

ここから先は、私の勝手仮説です。

QM/MM 研究というのがあります。量子力学と分子動力学のハイブリッド計算で、酵素の巨大な構造(MM)と、化学反応する微小な電子の動き(QM)を同時にシミュレーションする最強の解析ツールです。これによると、この酵素の反応が Cys145 から His41 へのプロトン移動と、それに続く Cys145 の攻撃から始まることが描かれています。つまり、この酵素の芯には「刃が届いたから切れる」というより、まず「プロトンの受け渡しが正しい形で起こる」という、かなり繊細な第一歩があります。 酵素一般に目を向けると、この水素やプロトンの移動は、古典的に壁を乗り越えるだけではなく、「量子トンネル効果」の寄与を受けることが知られています。代表的な例がソイビーンリポキシゲナーゼ (SLO) です。ここでは活性部位のわずかな振動が、水素が壁をすり抜けるトンネルの通りやすさを左右します。要するに、酵素の「ほんの少しの歪み」が、反応のいちばん繊細な段階を決定的に速めるのです。

ここで Mpro の 80 倍に戻ります。もし二量体の非対称化、つまり二つのハサミの歪みが、単なる形の変化ではなく、Cys145 と His41 の距離や角度、局所電場を「プロトンがトンネルしやすい配置」へ調律しているとしたら、 Mpro の高速状態は、単なる形合わせではなく、「量子の通り道が開いた反応モード」だと仮説できます。 量子生物の言葉を借りるなら、「片側が埋まることで、もう片側に量子的に通りやすい反応経路が開く」という見方です。Mpro はただのハサミというより、反応の深い層まで調律する二量体機械なのかも知れない。

もちろん、ここはまだ仮説です。今回の論文は量子トンネルを直接測ったわけではありません。しかし、事実はすでに十分面白く、その先に開く仮説も十分に刺激的です。 もし答えが少しでも肯定的なら、Mpro は単なるハサミではありません。二量体の相互反応によって、反応そのものの通りやすさを切り替える機械です。SARS-CoV-2 の複製は、配列認識や立体配置だけでなく、そうした「微小な時間地形」の設計にまで支えられているのかもしれない。私は、この 80 倍をただの速度差として見る気になれません。ここには、まだ古典力学だけでは言い表しきれない奥行きがあります。

つまり、構造生物学(形の変化)と量子生物学(電子・プロトンの挙動)を接続するとこうなります。 もし「単なる形の変化」だけなら、反応速度が数倍変わる程度で収まるはずです。それが「80倍」という桁違いの加速を見せたということは、単なる「鍵と鍵穴のフィット感」の話ではなく、「化学反応の根本ルール(量子力学的な確率)」を書き換えるレベルのチューニングが起きたと考えるのが、最も筋が通っている。 したがって、Mproの両側に基質が入ることで歪んでみえる形は、むしろ”狙った最終形”であり、それぞれのハサミでCys145 から His41 へのプロトン移動にトンネル効果が入る格好になって、80倍に爆速した(量子力学において、プロトンがトンネル効果(すり抜け)を起こす確率は、「距離」と「角度(電子の重なり)」に劇的に依存する。)。 いつの日か、この量子すり抜け現象が実験で証明されたらいいですね。


Fornasier, E., Fabbian, S., Shehi, H. et al. Allostery in homodimeric SARS-CoV-2 main protease. Commun Biol 7, 1435 (2024). https://doi.org/10.1038/s42003-024-07138-w


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