✒️ライフサイクルごとに劇的に状態が変化するコロナウイルス。しかも可逆的。私たちのゴールポストは動いている。
今日もXでとても興味深い投稿をしました。特に、Nタンパク質が「ウイルスのライフサイクル」ごとに、液体期と固体期を循環しているというのは衝撃でした。ウイルス観が覆った人もいるのではないでしょうか。私としてはさらに、液体期の方がサイズが小さくなる、というのもいかにも分子の世界の話で注意を引きました。
結局、私たちが戦っているものは、単一の状態ではないということでしょう。Mタンパク質も状態が切り替わる。Nタンパク質に至っては液体固体が変わる。液体の相手と固体の相手では対応が当然変わるはずです。つまり、このゴールポストは動いている。しかも複雑に。しかも、その全容もまだよくわかっていない、こういうことではないでしょうか。
他にもこういう状態切り替えをするウイルスはいます。
- インフルエンザウイルス(Spring-Loaded Machine):
- 仕組み:インフルエンザの表面タンパク質(HA)は、酸性になると「バネが弾けるように」形が劇的に変化し、細胞膜と融合します。
- ゴールポストの移動:一度このスイッチが入ると、元の形には戻れません。この「不可逆的な状態遷移」こそが感染の駆動力です。静的な構造薬剤は、この動的なバネを止めにくいことが知られています。
- HIV(Conformational Masking):
- 仕組み:HIVのエンベロープタンパク質は、普段は「閉じた状態」で免疫からの目を欺きます。受容体に触れた瞬間だけ「開いた状態」になり、中身を晒します。
- ゴールポストの移動:抗体が「開いた状態」を狙っても、ウイルスはすぐに「閉じた状態」に戻って隠れてしまいます。まさに「姿を消すゴールポスト」です。
- デングウイルス・ジカウイルス(Viral Breathing):
- 仕組み:ウイルス粒子の表面は固いように見えて、実は「呼吸するように揺らぎ(Breathing)」があり、その隙間から抗体が入り込むことが知られています。
- ゴールポストの移動:構造的に「ここは穴がない」と思われていた場所が、動的な揺らぎの中で実は「一瞬開いている」という、時間軸を無視しては見えない状態遷移です。
しかし、インフルエンザが『一度引いたら戻らないバネ』であるのに対し、コロナウイルスは状況に応じて何度でも元の形に戻れる、驚異的な可逆性を持っています。
私には、ここがいちばん面白いです。SARS-CoV-2 の次の発見は、新しい蛋白を1個見つけることより、既知の蛋白の中に何個の潜在状態が埋まっているかを掘ることから出てくるのではないか。M に隠しポケットがあり、N に材料相スイッチがあるなら、まだ見えていない “latent state” はかなり多いはずです。
ウイルスという敵は、そもそも「静止した標的(的)」ではなく、「状態を遷移させる現象(流れ)」として”設計”されているのです。
だからこそ、私たちの「ゴールポスト」は常に動き続けることになります。
ただの形に合わせて鍵を作っても、相手が相転移すればその鍵は空を切る。
M 蛋白が見せた「第三の形」への押し込みも、N 蛋白の「液体化」も、すべては相手の意図するゴールポストをずらすトリックです。
ウイルスは部品でできているのではなく、相の切り替えでできている。
私たちは、静止画を解析するのではなく、その「動画の文脈」ごとを捉えるアプローチへ進まなければならない。
敵は今、液体なのか、固体なのか。むしろこの状態変化を止めることが、致命的な打撃を与えることになるのかも知れません。
うちの今の研究について
ミトコンドリア外膜で慢性炎症やアポトーシスの鍵を握っている重要な孔、VDAC1の研究が佳境に入ってきました。この孔には一本の”紐(チューブリン)”が垂れており、これがATPや、ミトコンドリアDNAの透過率をコントロールしています。しかし、この孔がたくさん集まると、むしろこの孔同士が集まることで生じる大きな穴からミトコンドリアDNAが漏出します。この計算が、現在明らかになっている3Dモデルではなかなか容易ではなく、苦労しています。 前回のミトコンドリア修復(融合)を担うMfn2の分析レポートも合わせて、サイトの方から配信していきます。今後ともよろしくお願いします。